- DIYがお好きな方、あるいは業者様にとってみても最も難しく、結果を大きく左右するのがシステムサイジング(電気的な容量の設計)です。太陽電池が少なく、使用量が多い場合は雨天や曇天が続くとバッテリーがすぐにあがってしまい、システムは無用の長物となってしまいます。また蓄電池が小さかったり少なすぎたりする場合も同様で、蓄電池の放電深度が深すぎると蓄電池寿命が短くなってしまうという問題があります。
これらの問題を克服するには、システムを設計する前に、使用する負荷の容量をきちんと決めておく必要があります。一日あたりの使用量を直流テレビ20Wを2時間、直流蛍光灯10Wを3時間などと具体的に拾い出します。
■負荷の計算
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使用時間 |
定格負荷 |
一日あたりの消費電力 |
直流テレビ |
2時間 |
20W |
40W |
直流蛍光灯 |
3時間 |
10W |
30W |
負荷合計 |
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30W |
70W |
- すると一日あたりの合計電力が算出されますので、これをW=VA式により12Vシステムであれば
- 70W/12V=5.83...A
- と一日あたりの電流値に換算します。
するとこの値が一日あたりに必要な電力になりますので、これ以上の電力を得られるシステムを構築すれば良いわけです。
■効率について
ところが、上記の値がすべてではありません。5.83Aという一日当たりの必要電流を確保してもシステムは安定的には稼動しないのです。
バッテリーを介したシステムの場合、ここに効率という概念を導入する必要があります。
化学反応を用いるバッテリーは電気の出入りに伴い、損失が発生します。
これは恰も小さな穴のあいたバケツに水を入れているようなものかもしれません。同時にまた、電気配線をするということ自体、バケツリレーと同様、こぼしてしまったり、ひっくり返してしまったりの損失を見込まなければならないということなのです。
ここではバッテリーの効率を95%として考え、小数点0.95であらわすとしましょう。
バッテリー効率Bμ=0.95
続いて、もうひとつ効率のお話を。
太陽電池は気象や気温の変化(結晶系は高温時には電圧が下がります)、表面の汚れや温度、経年劣化により出力が減少します。これを出力補正係数といいます。
続いてこれもここでは太陽電池出力補正計数85%と考えましょう。
出力補正係数Mμ=0.85
損ばかりしているようで恐縮なのですが、これもトラブル防止のための我慢です。まだまだ他にも損失があります。
配線損失→配線は長ければ長いほど、また細ければ細いほど損失が多くなります。出来る限り短く、太くを心がけます。
インバータ損失→インバータを用いて交流100Vを得て機器を動かす場合の効率です。太陽電池から得られる電気は直流ですのでこれを交流に変換しなければならない場合、インバータ(交直流変換装置)を用います。これもまた、損失があります。
さて、色々お話しすぎて混乱を招いてはなりません。
さっそく上記の例を用いて簡単な計算をするために、これらの損失を総合効率μという値で代表させましょう。
このシステムの場合、5.83Aを必要としていますのでこれから損失分を加えた値を算出するには
一日当たりに必要な電流5.83A/μ
となります。
μはこの場合0.95*0.85と損失の掛け算で求めます。
0.95*0.85=0.8075→0.8
発電量の80%が実際に役に立つ電力ということになります。すると、この場合実際には
5.83/0.8=7.2875Aの電流が必要ですね。
さらに余裕を見て8Aとしましょうか。これが発電ソースつまり必要とする太陽電池の一日あたりの能力になります。
■太陽電池の選定
- ではシステム電圧に応じた8Aの太陽電池が必要でしょうか?一日に8A???そうです。太陽電池は太陽の方を向けて設置している限り固定式であっても太陽電池の発電する一日当たりの電力を考える必要があります。
たった一時間だけ最大能力で発電しているわけではありませんものね。朝にはちょろちょろと、昼にはいっぱいに、夕方にはちょろちょろと、刻々と移ろう日射と温度に応じて発電します。
ではこの変化しやすい日射条件をどう考えればよいでしょう。
これは古くから国の方で調査したデータがあり、大規模システムの場合はこれを参考に決定しますが、一般に、太陽電池は理想的条件で設置する場合、一日に最低3時間程度フルに発電していると考えることができます。
この「3」という数字を覚えておいてください。
また、夏は一日中日が当たっていますが、冬の冬至には日が傾くのが早くなっています。こうした季節変動も考慮に入れた値ですのでご安心ください。夏は「3」以上発電しますが、独立システムにおいては冬の日射時間の短い時期に合わせて通年でシステム性能を発揮できるようにサイジングする必要があります。
南面設置が可能な場合で勾配角は次の通り。
北海道60〜70度
東北・関東・関西・北陸・中国・四国・九州50〜60度
沖縄50度
エイヤっとまとめて独立システムにおいては南面でこのような急な勾配角での設置が理想的な角度になります。もちろん、これは固定式の場合ですが、ぶらぶらとベランダや庭に置いておくホビー的小型システムの場合は冬至を除き屋根勾配程度としておくのがもっとも発電量の多い設置方法になります。冬至前後は太陽高度が著しく低くなりますので、パネルを60度ほどに立ててやると発電量が増加します。
いずれにせよ、2枚以上のパネルを設置する場合は可動式は困難で、固定式となります。
その場合は上記の傾斜角を理想とし、一日当たり換算最低3時間発電するということです。
すると、上記の考え方から10Wのパネルでは一日にどれだけ発電するでしょう?
そうです。30W分発電すると考えることができます。日射の長い夏にはこれよりも多く4〜5時間分発電しますが、私たちはシステムを安定的に使うために日射条件の悪い冬に合わせてサイジングしなければなりません。
さて、元に戻りましょう。
必要な電流は8Aでした。
一方、太陽電池はもっとも少ない場合で一日に3時間発電します。
8/3=2.67A
12V換算で32W以上あれば良いでしょう。できればさらに余裕をみましょう。
少しでも余裕を見ておくと、バッテリーを使いすぎた時や日射がすぐれない時にバッテリーの回復が早くなります。
さて、早速これ以上の能力のあるパネルを探しましょう。
するとカタログには50WのGT133というパネルが見つかりました。
スペックシートを見てみますと
公称最大出力動作電圧を見ますと15.9Vとあります。念のためIVカーブを確認しますと日射の少ないときや気温の高い時にも15Vは得られそうです。するとダイオードを用いてもコントローラを用いても12Vのシステムに適用することができるのがわかります。電圧OKですね。
次に電流を見てみます。公称最大出力動作電流3.15Aですので一日平均値は*3の法則で9A程度は得られると考えます。
するとシステムに対して必要な容量が得られることがわかります。
これでパネルは決まりました。
コントローラは太陽電池からの最大電流に耐えるものの中からお好きなものをお使いください。拡張性があれば大きなものを。これ以上負荷を増やしたりシステムを大きくすることはありえないということであれば小さなものを。
■バッテリー容量の計算
さて、まだバッテリーの容量を考えなければなりません。
電気とバッテリーを蓄えた水とバケツに例えますと、毎日必要な水がはいるバケツと水ではあまりにも頼りないものです。雨が降らない日には一滴も水が無いという事態に陥ってしまいます。同様にシステムにおいてバッテリーも、日射が少ない日があれば干からびて(放電)しまいます。
これを防止するにはどうすれば良いでしょう?
そうです。器を大きくすれば良いですね。
これを無日照補償といい、何日間かの日射不足が続いても負荷を使い続けることができるかという安全率を導入する考えです。
ここでは無日照補償を5日としましょう。雨が続く梅雨時期や雪の降る地域ではパネルがほとんど発電しない日を考える必要があります。
さらにバッテリーは経年劣化で容量が減りますからこれを保守率(寿命末期における容量減少率)0.8として
バッテリー容量=一日の平均消費電流量*連続無日照補償日数/バッテリーの保守率
5.83*5*0.8=36.4375
これ以上のAHのバッテリーを用いればよいことがわかります。
40AHに近いのはEB35やEB50でしょうか。
EB35ですと、無日照補償をちょっと我慢することになります。電気を使いすぎた時にもバッテリーあがりを起こしやすくなります。50なら予定通り。これ以上になるとバッテリーの充放電が緩やかに行われるのでバッテリー寿命が長くなります。うんと容量の大きなバッテリーを使うのであればトラック用の中古200AHなどを使っても意外に良い寿命特性が得られます。ただし、場所が許せば、ですが。
一方、あまり大きなバッテリーを使う場合は自然放電を考慮に入れなければなりません。例のような小型システムに対して1000AH以上など大きすぎるバッテリーでは今度は自然放電分を充電する必要がありますから却って非効率になります。充電ソース側が完備しないうちに大きなバッテリーを用意した場合には、是非、100vの充電器を用いてバッテリーの健康を維持してあげてください。鉛蓄電池の場合はホビーやゲームで知られるニッカド蓄電池のようなメモリー効果はなく、常に満充電としてやることが蓄電池寿命をのばすための秘訣です。
なお、12Vシステムを例に取るともう少し丁寧な蓄電池設計は下記によります。
蓄電池容量=一日の消費電力量*不日照補償日数/保守率/放電深度/システム電圧
式を逆にして
Ld*Df/L/DOD/12=C
140*5/0.8/0.65/12=112AH
DODが0.5なら
140*5/0.8/0.5/12=145AH
放電深度DOD(depth of battery discharge)の値は蓄電池寿命に直結します。
計算式の中にあると理解の妨げとなるかもしれませんので、改めてご説明しますと
DODとは蓄電池容量に対する放電容量の比率です。
つまり100AHのうち50AHを使えば50%つまり.0.5ですし、30%を使えば0.3です。
蓄電池寿命は放電が深いほど短くなりますので、放電を浅く、つまりDODを小さく取ることが寿命を延ばす使い方になります。
ちなみに信頼性とメンテナンスサイクルを少なくするために産業用バッテリーでは0.5〜0.65の値を取る場合が多いです。ホビー用、簡易な実験用としてはあまり気にする必要はないかもしれませんが、末永くシステムを運用するためには意識する必要のある値です。
以上長々とお話してきましたが、これはシステムサイジングのための第一歩です。
したがって大規模なシステムではより丁寧に条件を拾い出し、さらに本格的な計算式を用いて設計する必要があります。
無駄にお金をかけないためにも太陽電池規模500Wクラス以上の大きなシステムを構築する場合は是非ご相談ください。
基本的に、太陽電池などの発電ソースと蓄電池を大きめに採択することがより安定した長寿命なシステムを作ることになりますが、バッテリー種の選択には経験値が必要なのと、種類による適用範囲の可不可がありますので容量の要素からだけの安易な選択はなさらないよう御願いいたします。
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